清家氏が実践したのは、相模湾の水深1173m地点と水深1455m地点の海底の巣穴に樹脂を流し込み、海底生物の巣穴を型取りするというもの。そもそも「そんな深海底に、生物は巣穴を作るのか」というところからスタートしたこの試みだったが、清家氏の調査によって「海底には大型無脊椎動物が形成した、巨大かつ複雑な巣穴が見られる」ことが確認され、水中で樹脂と凝固剤を混ぜる『アナガッチンガー』を開発することにより、巣穴の型取りに成功した。
実はこれまで、「ほとんどなにも分からない」というレベルだったという深海の巣穴生物の研究。今回の成功により、どんなことが期待できるのだろうか?
「例えば、鼠などの生き物は、食べ物を蓄える部屋や寝る部屋など、巣穴にかなり複雑な構造を作ります。なら、深海生物はどうなのか? 深海での巣穴研究が進めば、海洋生物の思わぬ一面を発見できるかもしれません。また、海底の動物の場合は、粘着性のある液や泥を巣穴に壁に塗り固め、巣穴が崩れないようにする工夫もしています」
巣穴の"建築技術"を応用し、砂漠や泥、海底に崩れにくい住居や施設が立ち並ぶ日が、いつかやってくるかもしれないのだ。
◆ケトル VOL.06(2012年4月14日発売/太田出版)